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2025年06月03日インドネシア
ローカル幹部の二重身分リスク、取締役就任後も労働者としての地位は維持できるのか
本稿は、従業員としての雇用関係を有する者が株主総会により取締役に選任される場面を念頭に、会社法上の「役員」と労働法上の「従業員」という二重身分の併存に伴う法的リスクについて検討するものである。
取締役は原則として「従業員」ではない
インドネシア会社法上、株主総会により選任された取締役は、会社の「機関」としての法的地位を有し、人事制度上の従業員には該当しない。取締役は労務管理体系から独立し、その指揮命令関係は株主に帰属するため、就任と同時に従前の雇用関係は当然には継続せず、あらかじめ二重身分としての法的枠組みを整備しない限り、従業員としての地位は失われる。
取締役就任前に退職すべきか
取締役就任に先立ち、従業員としての雇用契約を正式に終了させることが原則である。これは、会社法上の役員と労働契約上の従業員という異なる法的地位を明確に分離するためであり、通常は退職届の提出、未払給与・宗教手当(THR)・年休等の清算、ならびにBPJSからの従業員資格抹消を含む。以後の報酬は、HR給与体系とは切り離され、株主総会または取締役会決議に基づき支給されるべきである。
退職せずに就任した場合のリスク
取締役就任後も無期雇用契約(PKWTT)を維持し、給与を受領しつつHRシステムへのアクセスや指揮命令系統下での業務従事が継続している場合、形式上は会社法上の機関であっても、実態として労務従属関係にあると判断される可能性が高い。特に、雇用契約が有効に存続しており、日常業務において戦略的判断を超えた現場実務(例:工場運営、人事管理)を担い、社内評価や懲戒規程の適用を受けている場合、労働裁判所は「従業員性」を肯定し、退職金等の労働者保護を認める傾向にある。
取締役解任時の法的帰結
ケースA:雇用契約が存在しない場合
取締役としてのみ就任していた場合、株主総会による決議をもって、いつでも自由に解任が可能である。この場合、退職金やその他の労務上の請求権は、会社定款または役員報酬契約に明記されていない限り、発生しない。
ケースB:取締役と従業員の二重身分が継続している場合
無期雇用契約を維持したまま取締役として勤務していた場合には、退職金、勤続功労金、年休買上げ、未払い手当等の労務上の請求権が発生し得る。その有効性は、会社側が当該雇用契約が既に終了していた、あるいはそもそも存在しなかったことを立証できるか否かにより判断される。
企業側に求められるリスク回避策
□就任前の退職徹底:取締役任命の前に必ず雇用契約を終了させ、関連文書を一切残さない。
□契約の分離管理:二重身分を認める場合は、役員契約と雇用契約を完全に分け、各契約に職務範囲・報酬体系を明記する。
□報酬・保険・税務の整理:報酬の属性(雇用か非雇用か)を明確化し、BPJS登録や税務申告に齟齬が生じないよう対応。
□内部規程の非適用:取締役に対しては社内規程(評価制度・懲戒処分等)を適用せず、従業員的管理を回避する。
裁判所の判断基準
裁判所は以下の要素がある場合、労働者性を肯定する傾向にある:
●書面による雇用契約の存在
●戦略判断を超える現場的・実務的業務への従事
●社内制度上、従業員としての取り扱い(例:残業申請、社員証、HR承認)
一方、以下の場合は役員と判断されやすい:
●業務執行に関与せず、戦略判断のみに限定されている
●雇用契約が存在しない、または部下への報告系統がない
●報酬が取締役会決議に基づき支給され、HR給与体系に属していない
結論: 役員と従業員の地位は併存可能か
会社が法的に整合した契約構造を明示的に整備している場合に限り、取締役と従業員の地位は併存し得る。ただし、その選択は企業にとって法務・税務・評判リスクを伴う。最も安全かつ整合的な対応は、就任前の雇用契約終了と、会社法に基づく役員任命および報酬設計を通じて、両者を制度上明確に分離することである。
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