News/Newsletter

FCGグループのニュースレターをお届けします。

FCG インドネシア ニュースレター(2025年11月12日)

2025年11月12日インドネシア

インドネシアにおける勤続年数の算定:企業経営層がおさえるべき実務ポイント

 

インドネシアに進出する多国籍企業や外資系企業の間では、ある問いが繰り返し議論の的となっている。 それは、「従業員の勤続年数(masa kerja)は、契約社員として初めて勤務を開始した日から起算すべきか、それとも正社員登用日からとするべきか」という問題である。 一見すると些細な論点のように見えるが、実際にはこの判断が賞与、退職金、宗教手当(THR)などの算定額を左右する。さらに、その影響は給与計算にとどまらず、法令遵守上のリスクや労使間の信頼関係の毀損、労働監督当局による調査リスクにも直結する。 したがって、勤続年数を正確に算定することは、労務ガバナンスの中核を成す仕組みであり、正確性・透明性・従業員との長期的な信頼関係を支える極めて重要な要素である。

 

勤続年数算定の重要性

勤続年数の把握は、単なる人事・労務管理上の事務手続ではない。その根底には、法令遵守・財務計画・労使関係の安定という三つの柱がある。勤続年数は、退職金、勤続功労金、有給休暇、宗教手当(THR)など、従業員の法定給付の受給資格および支給額を決定する主要な基準となる。特に、契約社員(PKWT)から正社員(PKWTT)に転換する際に、勤続年数を誤って計算すると、会社側は不要な紛争や法的責任を負うおそれがある。また、外資系企業やグループ全体で監査・人事デューデリジェンスが実施される際には、勤続期間の取扱いが企業の信頼性や統治水準の指標として注目される。

 

勤続年数の法的起算点

インドネシアの労働法制(2003年労働法第13号、改正雇用創出法およびその施行規則)においては、勤続年数の起算点は労働関係が法的に発生した時点であり、正社員化された日ではないと明示されている。
したがって、雇用契約が締結された時点で—それが有期契約であっても無期契約であっても—従業員の勤続年数はすでに開始しているとみなされる。契約形態に応じて、その起算日の確認方法は次のとおりである。

• 書面契約の場合:契約書に明示された発効日から起算する。

• 口頭契約の場合:(例外的なケース):採用通知書に記載された就労開始日から起算する。

• 試用期間がある場合:試用期間の初日から起算し、試用期間の終了日を基準としない。

特に重要なのは、同一企業内で有期契約社員(PKWT)として採用され、その後無期契約社員(PKWTT)へ転換された場合、勤続年数はPKWT開始日から連続して計算されるという点である。この期間をリセットして再計算することは、法令の趣旨に反し、労働者の権利を損なうおそれがある。

 

人事労務および経営管理への示唆

勤続年数の算定は、以下のように企業経営の複数の側面に影響を及ぼす。

• 財務予測への影響:退職給付・ボーナス支給など将来債務の見積りに不可欠な基礎データとなる。

• 労使関係の安定:契約転換後も公平に勤続を認定することで、従業員の信頼感と定着率を高める。

• コンプライアンスの確保:労働監督官による調査では、勤続年数の扱いが監査項目となるため、一貫性ある運用が違反指摘の防止につながる。

• 雇用契約管理の整備:雇用契約書、延長通知書、正社員転換書類などには、初回就労日を正確に記載することが不可欠である。
これらを徹底することにより、内部記録と法的解釈の不整合を防ぎ、企業全体の労務ガバナンスを強化できる。

 

まとめ

インドネシアにおける勤続年数は、雇用関係が開始した「初日」から起算されるものであり、その後の雇用形態変更によってリセットされることはない。この原則は、法的に整合性のある雇用文書管理と透明で校正な人事制度の構築の重要性を示している。勤続年数の正確な算定は、単なる法令遵守の問題にとどまらず、企業の公正性・統治能力・持続的な人材マネジメントへの姿勢を映し出す指標である。
ゆえに、雇用の起点を常に原契約の開始日に遡って確認することこそが、健全な労務運営と信頼される企業経営の基盤となる。

 

 


<お問い合わせ先>

フェアコンサルティンググループ

〒530-0001 大阪府大阪市北区梅田2丁目5番25号ハービス大阪 オフィスタワー12F(本社)

WEB:https://www.faircongrp.com/

Tel:06-6451-9201 | Fax:06-6451-9203

e-mai: grm@faircongrp.com

PT FAIR CONSULTING INDONESIA

16th Floor MidPlaza 1 Jl. Jend Sudirman Kav 10-11 Jakarta 10220 Indonesia(インドネシアオフィス)

Tel:+62-21-570-6215 | Fax:+62-21-570-6217

Pahala Alex Lumbantoruan (Chartered Accountant)

e-mail:alexandra@faircongrp.com


「フェアコンサルティング インドネシア ニュースレター」本文の内容の無断での転載、再配信、掲示板の掲載等はお断りいたします。
「フェアコンサルティング インドネシア ニュースレター」で提供している情報は、ご利用される方のご判断・責任においてご使用ください。
フェアコンサルティンググループでは、できる限り正確な情報の提供を心掛けておりますが、「フェアコンサルティング インドネシアニュースレター」で提供した内容に関連して、ご利用される方が不利益等を被る事態が生じたとしても、フェアコンサルティンググループ及び執筆者は一切の責任を負いかねますので、ご了承ください。

 

 

【PDF】FCGインドネシアニュースレターNo.28